プラスチック規制の現状と今後の流れ

[アボマガお試し版 No.187]プラスチック規制の本気度の記事(一部)です。2021/10/26に配信したものです。
 
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世界的な使い捨てプラスチック規制の大きな背景に、(特に海洋)プラスチックごみと気候変動の2つがあります。
 
1950年以降生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されてきました。
 
回収されたプラスチックごみの79%が埋立あるいは海洋等へ投棄されており、リサイクルされているプラスチックは9%に過ぎません。
 
海洋に放出されたプラスチックごみはマイクロプラスチックに分解され、それを魚介類がエサを介して体内に蓄積し、食を通して人間の体内に蓄積し、健康問題を引き起こすことへの懸念があります。
 
またプラスチック廃棄物は太陽光による劣化で、二酸化炭素の25倍の温室効果を持つメタンガスが大気中に放出されるとの報告があります。
 

 
使い捨てプラスチック規制のうち、世界的に早くから進められてきたのはレジ袋の禁止や課税・有料化です。日本でも昨年7月から有料化が開始となりましたね。
 
意外と言っては失礼ですが、レジ袋禁止が早くから進んできたのはアフリカ諸国でした。ビニール袋が川をせき止め洪水の原因になったり、ケニアで通貨としての価値がある牛がビニール袋の誤飲で死亡するなどの問題が背景にあります。
 
EUではこれまでレジ袋有料化措置をとっていましたが、来年1月から小売店でのレジ袋の配布や販売が禁止されます。
 
すでにEUでは食器、カトラリー(ナイフやフォーク等)、ストロー、風船の柄、綿棒などの使い捨てプラスチックは事実上禁止となっており、禁止対象がさらに広がることになります。
 
禁止となっていない国々でも、スターバックスなどの喫茶店や食品会社、スーパーが紙製のパッケージに切り替えるなど、脱プラスチックの動きが広がっています。
 
気候変動など環境への意識の高まりとともに、主に若い世代を中心に環境に配慮していることを購買理由の一つに挙げる人々が増えているためです。
 
そのため、使い捨てプラスチック利用削減の動きは世界的に中長期的に続いていくものと考えられます。
 

2018年時点の各地域のレジ袋の禁止・規制状況。現在はもっと規制は進んでいる

 
使い捨てプラスチック規制強化の流れは、今後のプラスチック需要にどの程度影響を及ぼすのでしょうか。
 
今回の規制で影響を受けるのは、プラスチック需要のうち容器包装向けとなります。
 
容器包装向け需要は歴史的に、1960年代のスーパーマーケットや1970年代のコンビニの進出により、包装や袋物、レジ袋などに多くのプラスチックが使われるようになり、現在まで右肩上がりに増えてきました。
 
その結果、現在容器包装向けは世界のプラスチック需要の4割程度と、最も需要が大きいものとなっています。
 
容器包装向けプラスチックは基本的にすべて使い捨てであり、日本ではプラスチック家庭ごみのおよそ半分を占めています。
 
そのため、数字だけをみれば使い捨てプラスチック規制は今後のプラスチック需要にかなり大きな減少圧力をかけることになります。
 

 
ここで勘違いしてはいけないのは、すべての使い捨てプラスチック、すべての容器包装向けプラスチックが禁止される方向性ではないことです。
 
環境分野のルール作りを主導するEUの計画をみると、ペットボトルは分別回収率や再生材利用率を高めることを目指しています。
 
食品容器包装、ウェットティッシュ、タバコのフィルターなどは、回収・処理費用を製造業者に課したり、環境に与える影響について表示することを義務付けようとしています。
 
こうした使い捨てプラスチック製品について、規制は加えられるものの、禁止にするわけではないようです。
 

 
EUのプラスチック規制の根底には、循環型経済の実現があります。
 
循環型経済は廃棄が前提とされていた製品や原材料などを、新たな「資源」として経済活動に再活用するという考えであり、EUがルール作りを主導してきました。
 
例えば昨年末に公表された電池規則(案)では、域内で使われるあらゆる電池の劣化度、二酸化炭素排出量、含まれる希少鉱物の情報を、QRコードやブロックチェーンの活用でネット上で公表する計画です。
 
公表された情報をもとに、リサイクル業者は劣化した電池を回収、分解し、必要とするメーカーに素材を分配し、再利用できると期待されます。
 
これだけ見ても、テクノロジーの開発や運用、回収・リサイクルサービス、輸送など、広い分野で新たな付加価値を生み、経済発展につながる可能性を容易に想像できます。
 
炭素取引市場や国境炭素税の導入からもわかるように、EUは環境問題そのものを解決したいというより、環境を利用して経済発展したいのが本音です。
 
背景には、おそらく次の2つがあると考えています:
 

・EUは日本と同じく人口減少や世界的なICT企業がないという弱みを抱えており、経済成長の起爆剤となる分野の創出が急務だったこと
 
・EUは資源輸入国であるが、循環型経済の発展で資源輸入の必要性を減らし、経済や外交、安全保障面で米国やロシアにより強く対峙できること

 
使い捨てプラスチック規制は、循環型経済の枠組みの一つとなります。回収・リサイクルを促進することで、ロシアなどから原油や天然ガスの輸入を減らしたい思惑があると考えられます。
 
プラスチックを紙に替えたところで、森林伐採や紙の焼却につながるので根本的な解決にはなりません。プラスチックは丈夫なのに軽く、輸送効率を高め、燃料から排出される二酸化炭素軽減につながるという環境面のメリットもあります。