今回はバイオ医薬品会社のバイオジェン(ティッカー:BIIB)についてです。
すでに日本の報道でも大きく取り上げられた通り、バイオジェンにとって最大の焦点であった、エーザイと共同開発したアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブ(製品名:アデュヘルム)がFDAから迅速承認を受けました。
アルツハイマー病・認知症はがんのような国民病であるだけでなく、がんとは異なり、亡くなる何年も前から日常生活が困難になり、家族等の介護者などに甚大な負担を強いることが特徴です。
おそらくあらゆる疾患のなかで、ウイルス感染症と並んで社会への影響が最も大きいと考えられるアルツハイマー病・認知症の治療薬が承認されたことは、医療における歴史的出来事として刻まれることでしょう。
しかしアデュカヌマブの承認は終わりではなく、始まりに過ぎません。アデュカヌマブの普及にはまだいくつもの障害を乗り越える必要があります。
今回はアデュカヌマブに関する論点整理や今後の見通しを中心に、バイオジェンについて考えていきます。
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アデュヘルム(アデュカヌマブ)普及に立ちふさがる障害
投資家や市場関係者の大半は、アデュカヌマブの承認を予想していませんでした。
アデュカヌマブが初期のアルツハイマー病の進行を抑制するとの有効性は臨床試験のデータから不十分であると、昨年11月にFDA諮問委員会が結論付けたためです。
FDAが承認した医薬品の85%以上は諮問委員会の評決に従ってきましたから、まさか否定的見解が下されたアデュカヌマブが承認されるとはほとんど信じられてきませんでした。
ただ、臨床試験の結果から、アデュカヌマブは認知症患者の脳内に蓄積して神経細胞死滅につながる原因物質とされるタンパク質アミロイドβを減らす効果があることは立証されていました。
この事実および、アルツハイマー病およびその他認知症患者コミュニティの意見を踏まえ、総合的な判断でFDAはアデュカヌマブ承認を決めました。
これは患者コミュニティは認知症の新治療薬の誕生を望んでいたことを意味します。また認知症専門医のほぼすべては、アンケート結果からアデュカヌマブの使用に肯定的でした。
FDAが米国の高齢化に伴う認知症患者の増大や、それに伴う介護・医療の逼迫化、経済損失の大きさ、財政負担の増大に憂慮していたと考えられることは、以前にもお話しした通りです。
神経学、生物統計学、医学等の分野の多くの専門家を除き、大半はアデュカヌマブの承認を望んでいたと考えられます。
諮問委員会の評決から今日に至るまで、バイオジェンに関して悪いニュースばかり流れ続けてきました。
アデュカヌマブに対する否定的な報道はもちろん、稼ぎ頭だったテクフィデラや売上増を牽引してきたスピンラザが競争に晒され、特にテクフィデラは売上が激減して、バイオジェンの収益は1/3以上落ち込みました。
バイオジェン株は、見通しが最悪の誰も買いたがらない銘柄を購入できるかどうかという、長期投資家としての資質を問う試金石のような銘柄となっていました。
暗い見通しのなかで勇気を出して購入して忍耐強く保有し続けたバイオジェンの投資家が、アデュカヌマブ承認による株価30%超の急騰の恩恵を受けることができました。
アボマガではバイオジェン株を昨年6月29日に株価258.66ドルのときに紹介しており、現在は396.64ドルで53.3%のリターンです。
アデュカヌマブの販売名であるアデュヘルムは、来週には当初予想のおよそ3倍にあたる900を超える全米の医療施設に届けられる予定であり、医療関係者からの期待の高さが伺えます。
米国でのアデュヘルムの売上高はピーク時に年間100億ドル~500億ドルになるとの予測があります。
バイオジェンは米国での利益のうち80%を受け取り、残りはエーザイが受け取ります。
収益予測範囲は広いですが、下限である年間100億ドルの売上でも、バイオジェンの取り分はおよそ80億ドルで、これは昨年の会社全体の売上のおよそ6割で、バイオジェンの業績を一変させるものです。
しかしアデュヘルムに対する懐疑的な見方は払拭されていません。
多くの神経科学などの専門家はアデュヘルムの有効性に懐疑的であり、アデュヘルムの承認後、諮問委員会のメンバー3名が立て続けに抗議の辞任をしました。
そのうちの一人は、この承認は「危険な先例」であり、「恐らく米国では近年最悪の医薬品承認となろう」とのコメントを残しました。
アデュヘルムの承認でバイオジェンの株価は70%程度暴騰するとのアナリストの見方もありましたが、承認日は32%の上昇にとどまりました。
アナリストの評価を見ると、売り推奨はほぼ消えたものの大半はホールド推奨に移行したに過ぎず、買いよりもホールド・売り推奨が多い状況が続いています。
アデュヘルムの承認と、それが売れるか、売り続けられるかというのは別問題です。
以下の事柄がアデュヘルムの普及を妨げる要因として市場の重しになっています:
・将来の承認取り消しの可能性
・薬価の高額さ
・十分に保険適用されない可能性
アボマガ有料版では、これら障害について分析し、今後アデュヘルムやバイオジェンがどのような道を歩むのかについて説明しています。