社会的証明が働く2つの原理-不確実性と類似性-

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社会的証明が働く2つの原理-不確実性と類似性-

   今回は社会的証明が働きやすくなる2つの原理についてです。

社会的証明が働きやすくなる2つの原理

   チャルディーニ氏は社会的証明が働きやすくなる原理として、次の2つを挙げています:


  1. 不確実性(Uncertainty)
  2. 類似性(Similarity)

   以下解説です。

不確実性(Uncertainty)

   社会的証明が無意識のうちに働きやすい原理の一つ目は不確実性です。 現在の状況を把握できていなかったり、遭遇した状況に関する知識や経験が薄かったり皆無であるためにどのように対応すれば良いのかわからない...といった不確実な状況下では、私たちはより社会的証明に依存した判断や行動を選択する傾向にあるのです。


   例えば通勤時間帯に列車が人身事故等で最寄り駅で停車しているとき、乗客の多くは乗っている列車から降りようとしないでひたすら運転再開を待つ傾向にあります。


   乗り換え列車のない駅で停車しているのであれば仕方ないですが、乗り換え列車のある駅で停車をしていて、しかも都心のように様々な迂回ルートが存在して別ルートで目的地に到達できる場合であっても、何故か乗客は降りないで待っていることが多いのです。


   車掌から運転再開の目途は立っていない旨の案内を何度聞かされても、しばらくの間ほとんどの人は一向に動こうとしないでじーっと車内で待っているのです。 これは長年東京に住んできた経験の中で常に感じてきたものです。


   実は首都圏に住んでいても都心の路線図を頭に思い描ける人はそう多くないようです。 詳しい統計データを残念ながら私は知りませんが、友人や職場の人などを見ている限りでは自分が普段乗らない路線についてはほとんどの人は知識がないように思えます。


   列車が止まっていても周りの人と同じように運転再開を願い待つ人が多い原因の一つとして、路線図に対する知識の希薄さから迂回ルートを頭に描けず不確かな状況に陥ってしまい、社会的証明が働くことは十分考えられるでしょう。


   他にも不確かな状況で自然と社会的証明に従う例は次のように様々なケースで存在します:


  • 土地勘のない場所で行われるサッカーやコンサートの会場に向かうときに、多くの人が向かっている同じ方向を会場へ向かう道だと信じてついて行く
  • 財務諸表も読めず企業のビジネスもよく理解していない投資家が、とりあえず有名な大企業に投資を行う
  • 道で倒れている人を目撃しても、周りの通行人がみな素通りしているので「ただ単に寝ているだけか」と思って素通りする
  • 将来やりたいことが見つからないので、とりあえず有名で偏差値が高そうな大学を受験する
  • 中東といった日本人に馴染みの薄いニュースに対して、日本メディアで報道された内容を(例え事実と異なっていたり意図的なプロパガンダだとしても)鵜呑みしてしまう
    ※ピンと来ない人は例えばこちらのサイトを見て国際ニュースを勉強すると何を言っているのわかると思います

   それでは何故不確かな状況では社会的証明がより働きやすくなるのでしょうか。


   それは不確かな状況では目に見える情報や本能的に正しいと思える情報が私たちが行動や判断を下すための唯一の強力な情報となるからです。


   私たち人間は目に見える情報や経験や知識として頭に刷り込まれている情報、容易に頭の中で想像できるイメージ等を無意識に直感的に頭の中に思い浮かべることで初めて思考や行動が出来る生き物です。 また無意識的に頭に思い浮かべられることは、安心感の獲得にもつながります(→Cognitive Ease)。


   しかし不確かな状況では自分が信頼できる情報を頭に思い浮かべることができません。 よって不確かな状況では思考や行動をするために、さらには安心感を得るために、私たちは何が何でも正しいと信じられる、必要だと思える情報を欲しがるのです。


   よって不確かで何も自分の頭の中に信頼できる情報がない状況下で、大勢の人の行動やメディアからのニュースといった、直感的に信用できると感じられる情報を目の当たりにしたら、信じる以外に選択肢がなくなってしまうわけです。


   実際、私たち人間にはAvailability heuristicと呼ばれるルールが備わっています。 Availability heuristicによって私たちが意思決定を行う際に、パッと頭に浮かんだものや目に見える鮮明な情報を無意識的に判断基準に利用する傾向にあるのです。


   判断基準に用いる情報は正しい、正しくないではなく「正しそう、正しくなさそう」というフィーリングで決まってしまいます。 だから誤りであっても構わず信じてしまい、間違った思考や行動につながりえます。


   しかも不確かで不安な状況だと、私たちの心理がCognitively busyと呼ばれる状態に陥ってしまい、疑う、思いとどまるといった意識的な思考を行いにくくなってしまいます。 これが目に見える情報に対する無意識的な肯定をさらにアシストしてくれます。


   こうしたことから、不確かな状況では私たちはつい他の人が行っている行動を鮮明で貴重な情報だと思って、何の疑いもなく正しいと信じてしまいやすいのです。

類似性(Silimarity)

   社会的証明が無意識のうちに働きやすいもう一つの原理は類似性です。 類似性とは自分と似た者の行動や思考を無意識のうちに正しいと判断してしまい、行動を真似するなどの影響を受ける性質や、一つの出来事をきっかけにして類似した出来事が他の人に伝播する性質を指します。


   ここで言う似た者とは趣味や性格だけではありません。 年齢、性別、国籍、使用言語などいろんな要素が社会的証明に影響を与えます。


   類似性による社会的証明が働くことは私たちの日常生活でもありふれています。 例えばファッションやスイーツの流行なんて、まさに年齢や性別が似た者同士で広がる社会的証明ですよね。


   また音楽のコンサートやライブに行ったことがある人はわかると思いますが、正しい手拍子や手の振りが瞬く間に広がる様は驚嘆に値します。 同じ曲でもAメロBメロサビで手拍子や手の振りが変わるので変わり際はバラバラになってしまいますが、一瞬で正しい手拍子や手の振りが伝播してファン全体の統一が図られていくものです。


   ここでも一つのアーティストが好きという類似性のために社会的証明が物凄くよく表れる例と言えるでしょう。


   このように類似性は私たちの日常生活によく見られますが、実は意外に思われるような場所でも類似性は見られます。 例えば次のようなことが知られています(以下の例はすべて、N. クリスタキス、J. ファウラー著「つながり」より):


  • 似た者同士が結婚する傾向がある(年齢、教育、民族、食事など)
  • 兄弟や友人知人に肥満の人がいると自分も肥満になりやすい
  • 周りの人が禁煙を行うと自分も禁煙しやすい

   このように私たちは年齢や趣味、性格、行動などが似ているような人たちの行動を一つ目撃すると、真似するなどの影響を受けていくのです。


   では何故私たちに類似性が働いているのでしょうか。 これを考えるためにおそらく最も大切なのは、何故自分と何かしら似ている人に対して懐疑といった心理的バリアが破れやすいかどうかです。


   というのは一度心理的バリアが外れれば、後は様々な心理的性質から似ている人の影響を受けていくのが容易に想像できるからです。


   例えば似ている人に対して好意を持てれば、相手の行動はきっと正しいという連想が無意識的に出来てしまうものです。 肯定的なイメージのものが肯定的なイメージを連想によって生み出すことは、心理的バリアが取れている人間の基本的特徴です(→参考)。


   また人間は確証バイアスと呼ばれる、正しいと思っていることを追い求める傾向にあり、似ている人の行動を正しいと感じたときにそれを真似したがるのも頷けます。


   では何故自分と似ている人に対する心理的バリアが破れやすいのかを考えると、古来より人間が集団活動の中で現代まで生き延びてきた進化論的考えが重要なように思えます。


   人間は生存のために集団での生活を選択してきましたが、効率の良い集団活動を行うためにはどうしても他人と円滑なコミュニケーションがとれなければなりません。 コミュニケーションがとれないと何か集団で作物の採集や狩りといった行動をする際にも統率的な行動が出来なくなり、生存を脅かすことになるからです。


   しかし人間は味方にもなり得ますが同時に敵にもなり得るため、無暗に人間と仲良くすることはかえって自らの生存を脅かすことにもつながります。 よってコミュニケーションを取っても大丈夫な人間かどうかを判断する一つの基準を身につける必要があります。


   その判断基準として自分と似ているかどうかは非常に重要だと言えます。 考えが似ていればグループでの意見や行動の統一に間違いなく有利になりますから。


   年齢や性別、体型といった見た目は考えが似ているかを示す一つの単純な基準となりますから、見た目が自分と似ている人に対して心理的バリアが破れやすいことも納得できます。

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