当たり前を疑え-心理が生むリスクを理解し不確実を楽しむ-

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大きな幸せ、大きな悲しみ、トラウマ

   前回の記事では小さな幸せに積み重ねは中々実感できませんが、小さな損の積み重ねはズキズキと傷口を広げてしまうことを説明しました。 これは大きな幸せや大きな損についても似たようなことが当てはまります。


   大きな幸せは時間が経つと幸福度にあまり影響を与えなくなりますが、大きな損によって生まれた傷は時間が経っても中々癒えないのです。 言い換えれば損や不幸は引きずるけど、幸せは引きずれないのです。

実験

   心理学についてのこんな実験結果があります。 実験の参加者を次の3グループに分けました:

  1. 1年前に宝くじに当たったグループ
  2. 1年前に事故に遭ってマヒの後遺症が残ってしまったグループ
  3. 特に人生に関わる大きなイベントを体験していない人たちのグループ

   このようなグループの人たちにインタビューをして、現在の自分に満足しているか、また自分が現在幸せかどうか尋ねました。


   まずは1年前に宝くじに当たった人たちのグループです。 宝くじに当選したらもちろん嬉しいに決まってますよね。 私は宝くじに当選したことがありませんが、もし宝くじで3億円が当たったら速攻で全額投資に回して配当収入で残りの人生をヌクヌクと生きていきたいなぁ、そんあ妄想をしちゃいます。


   ところがどっこい、1年前に宝くじに当たった人たちの幸福度は、なんと最近特に大きなイベントを経験していない人たちの幸福度とさほど違いがなかったのです。


   もちろん宝くじに当選した人たちも当たった当初はめちゃくちゃ心が熱くなったことでしょう。 めちゃくちゃ浮かれ気分だったに違いありません。


   しかしこうした喜びは一年も経つと忘れ去られていくのです。 お金で幸せは買えないとよく言いますが、こうした結果からもそれが垣間見えます。


   一方で1年前に事故に遭ってマヒの後遺症が残ってしまったグループ、彼らの幸福度は他の二つのグループの人たちに比べて低かったのです。 やはり1年前に遭った事故に遭った悲しみはなかなか癒えるものではないのです。


   しかもマヒをした人たちは「もしもあのとき事故に遭っていなかったらどれだけ幸せな人生を送っていられたのだろうか...」というような、過去に対する後悔の念を持っている人たちが多かったのです。


   皆さんもご経験あるでしょう、彼氏・彼女に振られたときに自分の過去の過ちを初めて省みて、「あのときあんな傷つけることを言わなかったら...」などといったもしも論を頭に巡らせることを。


   このように自分が過去に被った損は、長い期間が経っても中々癒えることはないのです。

トラウマから見る喜びと悲しみの非対称性

   私たちは何かあまりにも心身を傷つけられる経験をするとトラウマになってしまって、その後何年も引きずってしまいます。


   私の場合は電車の中でパニック症候群のようなものに掛かってしまい、その後約1年間は各駅停車以外の列車に乗ることが出来なくなりました。 昔から私は電車に乗るのが好きで、青春18きっぷなんかを利用してよく遠出したりもしてました。 何百回と電車を楽しんできた私でさえも、たった一回のトラウマが長く尾を引いてしまったのです。


   しかし喜びにトラウマのようなものはありません。 今まで味わったことのない最高のスイーツにめちゃくちゃ感動しても、その後その最高のスイーツを見ただけで心身ともにめちゃくちゃ喜びの感覚を味わうことなんてありませんよね。


   私たちは喜びと悲しみを対で捉えがちです。 喜びと同じ量だけ悲しみがあると考えがちです。


   しかし喜びと悲しみは、必ずしも完璧な対にはなっていないのです。 悲しみは長い間ストックされますが、喜びはそこまで長い間ストックすることはできません。 悲しみにはトラウマがありますが、喜びにはそうしたものはありません。


   喜びと悲しみの非対称性、これこそが喜びと悲しみの正しい捉え方なのです。

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