System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-

投資ブログへのリンク

System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-

   私たちの心理に備わったSystem1とSystem2。 System2はより物事をより論理的に考え、System1によって判断された直感が正しいかどうかを精査してくれる人間の大切な性質です。 また人間の理性を司っているのもSystem2です。


   System1による直感は間違っていることがよくあります。 そういったSystem1の間違いを審査し、人間らしいミスを減らす重要な役割をSystem2が担っています。


   しかしSystem2には弱点があります。 それは大きく次の二つです:

  1. System2を使うとライフを消耗する
  2. System2を使うには意識が必要

System2を使うとライフを消耗する

   System2の一つ目の弱点はすぐにライフを消耗することです。 System2を使い続けるとだんだんと頭に負担が掛かって、意識的に物事を考えたり記憶をとどめておくといったことが出来なくなっていきます。 そして頭を意識的に使ったり、理性を保ったりといったことが出来なくなっていきます。


   例えば食材や日用品などを一度にまとめて買いたいとき、家を出るときから欲しいものを買い物カゴに入れるまで、買うものを忘れないように頭に記憶をとどめておきますよね。


   このとき何だか頭の中に軽いおもりがついているような感覚がありますが、これはSystem2が働いているという証拠。 ちょっと物事を覚えておくだけでも意識的にSystem2を働かせる必要があって、それだけでも頭が疲れてしまうのです。


   そして無事に買い物が終わると、頭の中が解放された気分になりますよね。 System2を使い終わって、System2を使うために掛かっていた負担が一気に消えたからです。


   このようにちょっとしたことでもなんでも、System2のライフは簡単に削られてしまうのです。


   さらにSystem2を使い続けると、だんだんとSystem2を使った意識的な判断や理性を保つといったことが出来なくなっていきます。


   その最たる例は、仕事から帰ってきた後の家での過ごし方です。 何も考えたくない、ダラダラとした恰好でグダグダ過ごしたい、そんな風に思う人が大半だと思います。 誰にも見せられないような過ごし方をしている人もいるかもしれません。


   これは仕事場でSystem2をめちゃくちゃ働かせまくった結果、System2が疲弊しすぎてもはや"大人らしい"行動をすることが出来なくなってしまっているからです。


   仕事場での作業はまさにSystem2のオンパレード。 資料をつくる、つくった資料を見直す、言葉遣いに気を付ける、感情を抑えてひたすら理性を保つ、仕事やメール、雑用といった複数の作業を同時にこなす、これらを行っている最中はみんなSystem2が使われています。


   System2に特にこたえるのは期限、納期といった時間制限。 System2は元々スローシンキングなため、期限に間に合うように頭をフル回転させて高速で確実なタスクをこなすことはSystem2にとって大きな負担となってしまうのです。


   こんなにSystem2ばかりを使った作業を毎日最低8時間も行うのですから、頭が疲れるのも当然です。


   そして仕事から家に帰るとクタクタ、何も考えたくない、自分を解放したい... 仕事中にSystem2をたくさん使ってしまったため、System2を意識的に物事を考えたり理性を保つことが出来なくなっているのです。 その結果、System1による本能的な行動がより強くなってしまうのです。

System2を使うには意識が必要

   System2のもう一つの弱点は、私たちが意識をしないとSystem2は使われないことです。 ほとんどの人は例え頭が元気に働いていても、最初はSystem2を使わずにSystem1だけで直感的に対処しようとします。


   そのためにちょっとしたクイズを出しますので答えて見て下さい。 ("The bat and ball problem"という有名な問題です。ただし数字を少し変えています。)


   ボールとバットを買うと1100円掛かります。 バットはボールよりも1000円高いです。 ではボールはいくらでしょう?


   バットは当然100円、そう考えますよね。 ほとんどの人は真っ先に「100円」を思い浮かんだはずです。


   私たちはこうした問題が与えられると、瞬間的にSystem1による直感で答えてしまうもの。 「100円」と頭に浮かんだのは、問題の内容、そして「1100円と1000円」という二つの数値比較から至って自然なことです。


   しかし答えは「100円」ではありません。 正解は「50円」です。


   バットがボールよりも1000円高いということは、ボール2個分の金額+1000円が1100円だというわけです。 だから1100円から1000円を引いた100円を、さらに2で割らなければなりません。


   正解した人でも多くの人は「100円!...いやいやなんかおかしいぞ...あっ50円か!」と、最初に直感で「100円」と思った後に計算して「50円」という正しい答えを得たのではないでしょうか。


   また50円という正しい答えを計算するときには意識的に頭を働かせて、ちょっと頭に負荷がかかったような感覚を持ちながら計算したと思います。 これが多くの人間が行う思考プロセスなのです。


   (私も本記事を修正のために久しぶりに再読したときにはこのように考えてしまいました。)


   このようにSystem2は意識して初めて使われるものなのです。 そして意識しない限りは常にSystem1による直感頼りになってしまうのです。

System1が発するシグナルをSystem2による行動に変えられるか

   上のボールとバットのクイズをあなたがどう答えたかを思い出して下さい。 あなたはまず最初に頭の中に「100円」が思い浮かんだ後に、さらにちょっと考えてみたでしょうか。


   もしちょっと考えて計算してみたあなたは大丈夫です。 しかし「100円」と思い浮かんだ後に何も考えなかった場合はちょっとまずいかもしれません。


   こうした子供じみた問題が"わざわざ"与えられたら、普通"罠"があると気づくもの。 おそらくあなたも「100円」という答えが頭に浮かんだと同時に、何となく疑いのような変な感覚が頭の片隅にあったのではないでしょうか。


   このちょっとした違和感、シグナルを見て見ぬふりして、「考えるのが面倒」「100円で正そうじゃないか」「自分の直感が間違っているはずがない」と感じて少しもSystem2を使わないのを癖にするのはあまりよくありません。


   何故ならこうした気づきを活かすか活かさないかが後の自分にじわじわと、しかし無視できないくらい大きな影響を及ぼすからです。


   例えば多くの食材や日用品を買おうとして、頭の中に「忘れないか大丈夫かな」という不安が脳裏によぎります。 この「大丈夫かな」という瞬間的な気持ちに従って、ちょっと面倒でも買うものリストをメモしておけるかおけないか。


   もしここでメモを取らずに「大丈夫だろ」と自信をもって出かけると、買い物が終わるまで頭の中に記憶しておく必要があり余計にSystem2を使う羽目になります。 忘れるリスクもあります。


   クイズや買い物程度だったら別にいいですが、例えば次のようなものはどうでしょうか。


System1によるシグナル System2による意識的行動
読み方がわからない漢字を見て「何と読むんだろう」 ネットや辞書で読み方を調べる
英語できる人を見て「俺も(私も)英語できるようになりたいなぁ」 早速本を買って勉強してみる
仕事でつくった資料を見て「なんかわかりずらいなぁ」 わかりずらい文章を校正する
普通のサラリーマンが日本の現実、将来を考えて「金銭的に不安だらけだ」 他に収入を増やす術はないかと模索し、副業等に挑戦してみる

   これを見てどう思いますか? 左側のシグナルを右側の行動にすぐに変換できたらすごいって思いますよね。


   それであなたはすごいと思うこうしたこと、やれてますか? いままで何十回、何百回と左側にあるようなシグナルを感じてきたかと思いますが、それをどのくらい右側の行動に変換できていますか?


   ・・・


   ちょっとしたシグナルはSystem2を使って意識的に行動するチャンスです。 すべてのシグナルを行動に結び付けることは人間の怠け心を考えるとさすがに理想を追い求めすぎですが、出来るだけSystem1のシグナルを意識的な行動に変換させていきたいものです。


   いかにこの変換を行って行動に結びつけられるかが、自分自身のレベルアップのためのキーとなることでしょう。

関連リンク

   ・不安になるとSystem2が中々働かなくなってしまいます

   →Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-


   ・System2の働きは感情を押し殺すことでも鈍くなります

   →Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-


   ・複数の作業をこなすとSystem2が疲弊してしまいます

   →複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-


   ・System2を使えば使うほど楽に使えるようになっていきます

   →System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-


▲System1、System2関連記事一覧に戻る▲

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

関連ページ

System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
プライミング効果を英語学習に生かす
3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
アンカリング効果の認知心理的プロセス
アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
後知恵バイアス×権威とモラルの問題
Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
Norm理論とは何か
英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
終わりよければすべてよし
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
System2からSystem1にもっていく

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲