No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-

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No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-

   人間には、状況によって意見や行動がコロコロ変わるDomain Specificityという性質があります。


   実は私たちの多くはDomain Specificity性を無視しています。 そしてDomain Specificity性に気づいていないために、私たちは無責任な人たちの意見を知らず知らずのうちに受け入れてしまっているのです。

Domain Specificityの無視:System1はSystem1に気がつかない

   私たちの多くはDomain Specificity性に気づいていません。 気付いていないだけでなく、私たちはDomain Specificityを知らず知らずのうちに無視しています。


   Domain Specificityの無視がよく顕れているのが他人の評価です。 私たちは理系の人はみんなパソコンができると勝手に連想してしまいます。 技術者として物凄い成果をあげた人は、何でも出来ると思われて管理職や経営側に抜てきされることがあります。


   これらはすべて幻想です。 理系の人はパソコンが得意とは限りませんし、技術者として優れていても管理職や経営職の能力があるわけではありません。 (私は学生時代、パソコンがほとんど使えませんでした)


   人間のDomain Specificityという性質上、どんなに一つの特定の分野で最高の能力を持っていたとしても、分野が変われば途端にヨチヨチ歩きの赤ん坊になるのです。


   もちろん最高の能力を持った分野を新しい分野に活かすことはできますが、そのためには結局新しい分野でそれ相応の経験を伴う必要があります。 一つの分野の能力を他分野に活かすことは高尚なことなのです。


   しかし私たちの無意識な連想、イメージはこれらのことを無視します。 理系とパソコンとの関連、一つの能力に長けていればなんでもできる、こういった自然な連想によってDomain Specificityを無視するのです。


   連想もDomain Specificityも、ともに人間に無意識に働くSystem1による性質です。 つまり私たちのSystem1はSystem1に気が付かないのです。

No skin in the gameの許容

   Domain Specificityの無視は大きな問題を生み出します。 それは"No skin in the gameの許容"です。


   "No skin in the game"とは「自分の発言や行動に自らリスクを背負わずにリターンを得ようとする」という意味です。 例えば「自分では実践しないような高尚なことを人に偉そうにアドバイスして名声を得る」ことがNo skin in the gameに該当します。 一言でいえばNo skin in the gameは「無責任にリターンを得る行為」を指します。


   そしてNo skin in the gameの許容とは、無責任な人たちの意見を私たちが知らず知らずのうちに受け入れていることを意味します。


   現代の世の中では残念なことに、No skin in the gameがある意味で"権威の象徴"になっています。 どういうことかというと、権威というのが「自分では行わない最もらしい意見を相手に押し付けることで報酬を得られる状態」と化しているのです。


   例えばこんな人たちです:


  • 社員に生産性向上を執拗に促す、業績の悪い企業の経営者
  • 自分は投資を行っていないのに「いまはこの株が熱い」という情報を流す証券アナリストや投資コンサルタント
  • 患者には健康的な生活を推奨する癖に、自分はまったく健康に気を遣わない医者

   彼らのように権威のある人は、相手に対して様々なアドバイスや命令と称した意見を言ってきます。 しかし彼らの多くは"経営者、専門家としての立場"としての意見を言っているに過ぎません。


   いざ状況が変わって"もし自分が行うならどうするか?"という逆の立場になれば、人は今まで他人に言ってきたアドバイスを平気で翻すものです。


   これが人間のDomain Specificity性が引き起こす、No skin in the gameの問題です。 Domain Specificityとは、特定の状況によって言動や感情がコロコロ変わり、ときに矛盾した行動すら引き起こす人間の性質だと話しました。 こうした傾向が、専門家や経営者といった権威のある立場の人に対して顕著に表れるのです。


   しかし私たちはこうしたことに中々気づけません。 No skin in the gameを許容しているのです。


   どういうことかというと、私たちはステータスが高く権威のある人の意見には、無意識のうちに従いやすい性質があります(権威性)。 そのためこうした権威のある人たちのアドバイスに自然と従ってしまうのです、例えそれが「権威のある立場からのアドバイス」に過ぎないとしても。


   権威性という、やはり人間の自然な性質によって、Domain Specificityという人間の性質が無視されるのです。 こうして私たちは無意識のうちにNo skin in the gameを許容しているのです。


   私たちは「人間はDomain Specificity性によって立場や状況によって言動を大きく変える」「アドバイスを行う大多数の人の最大の目的はお金を稼ぐこと」であることを決して忘れてはなりません。


   例え専門家といった権威のある人であろうとも、発言を丸のみせずに自分で考えて自分で納得のいく決断する、こうした姿勢が大切となるのです。 結局最終的な責任はすべて自分で負わなければならないのですから。

関連リンク

   ・自らの言動にどの程度のリスクを背負っているか、これこそが人間の信頼度を測る最適な指標です

   →Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-


   ・人間の非合理性を象徴するDomain Specificityとは何か

   →Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-


   ・人間は中々本質を見抜けない生き物ですが、それがかえって生きがいを感じさせてくれるのです。

   →人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である


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