人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-

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人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-

   今回は人間の重大な欠陥である、「時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がっていく」ことについてです。


   私たちは株価暴落といった可能性やリスクを、主観的な感じ方や想像のしやすさといったリアルさで捉えてしまう傾向にあります。


   可能性をリアルさで捉えることにより、時が経つにつれてリスクに対する人々の感じ方と現実世界に潜むリスクとの間に大きなギャップが生まれていくのです。 このギャップによって危険を事前に察知できずに、愚か者はリスクが現実になったときに滅んでいってしまうのです。


   ※「可能性」、「リアルさ」という用語は独自の意味合いで使用しているのでご注意ください。 それぞれの意味についてはこちらをどうぞ

時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる

   時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がるとは、次のようなことを意味します。


   リアルさは最近どれだけ出来事が起こったかで決まります。 つまり直近に何も大きな出来事が起こっていないと、リアルさはどんどん薄れていくのです。


   一方で巨大地震や株価暴落を引き起こす"見えないエネルギー"は、時が経つに連れて徐々に徐々に増えていきます。 つまり時が経てば経つほど、甚大な被害を生み出す出来事が起きる確率は日に日に増していると考えられるのです。


   その結果、時が経つに連れて危険な出来事が起きやすくなっているにも関わらず、私たちはこうした危険な出来事が起きないものと考えてしまうのです。


   これを直感的に理解してもらうために、砂粒を一粒一粒積み上げて砂山をつくっていく光景を思い浮かべてみてください。 ただし私たち自身にはこの砂山自体見えず、何粒積みあがったかどうかだけは知ることができると仮定してください。


   考えて欲しいのは、実際に砂山が突然崩れ去る可能性と、砂山が突然崩れ去ることに対して私たちが感じるリアルさです。


   するとどうでしょうか。 砂山に砂粒を乗せれば乗せるほど、砂山が突然崩れる可能性はもちろん増えていきます。


   しかし砂粒を乗せれば乗せるほど、砂山が崩れない時間も積みあがっていきます。


   私たち自身にはこの砂山は見えないですし、何粒積みあがれば崩れるのかどうかはわかりません。 よって私たちが感じることのできる「砂山が崩れるリアルさ」は、「砂山が崩れない期間」に大きく依存してしまいます。


   つまり私たちが感じる砂山が崩れるリアルさは、時間とともに無意識のうちにどんどん減っていってしまうのです。


   こうして私たちの中で知らぬ間に可能性とリアルさとの間のギャップが広がっていき、油断が増幅していくのです。 リアルさがほとんどないので「まぁそのうち準備すればいいだろ」と先延ばしして結局何も準備しないのです。


   巨大地震や噴火、株価の暴落といったものは必ず兆候があるものです。 地震や噴火が最近は昔に比べて頻発している、GDPや債券の利回りといった経済や金融の指数が悪化し始めている、こうした何かしらの兆候は確かにあります。


   しかしあまりにも地震や暴落といったものに対するリアルさがなくなってしまうと、こうした兆候に対しても「見てみぬ振り」をしてしまいます。 リアルさがなくなると不感症に陥ってしまうのです。


   そのためにいままで何年も、何十年も起こらなかった大地震や株価の暴落に突然襲われたとき、何の抵抗も出来ないまま多くの人々が荒波に飲み込まれていくのです。

可能性は未来に対するもの、リアルさは過去に対するもの

   時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がることに関連して、私たちがしっかり認識しておくべきことがあります。 それは可能性とリアルさは考える時間軸が真逆であることです。


   可能性とはもちろん未来に対する考え方です。 地震が起きる可能性、株価が上がる可能性、これらはもちろんこれから未来にどれだけ起こり得るかということを考えています。


   しかし私たちが代わりに考えてしまうリアルさは過去によって決まります。 地震が過去にたくさん起こっていれば地震が起きるリアルさは大きいですし、ここ最近株価がグングン上昇傾向にあれば株価が上昇するリアルさは大きいものとなります。


   未来の可能性に対して、過去のリアルさで判断する... これは私たち人間の大多数が大転換期に狼狽してしまうことをまさに裏付けるものです。


   歴史は常に興亡の繰り返しです。 良いときがあれば悪いときもある、悪くなってもいずれはまた新たな良い方向に向かっていく、こうしたサイクルに変わりはありません。


   ということは、これから悪くなったり良くなったりする転換点のときこそ、大多数の人間が最も過ちを犯すということです。


   というのは人間のリアルさは過去に依存するので、悪くなる転換点にこそ「未来は良くなる」という感覚が頂点付近に達している。 逆良くなる転換点にこそ「もうこの先未来はない」という絶望に打ちひしがれている。


   こうして人間は変化に乗り遅れてしまい、しばらくあたふたしてしまうのです。


   私たちはこうした人間の愚かな習性をしっかり認識する必要があります。 過去にすがりすぎず、現在の状況にもっと敏感になって未来を考える必要があるのです。


   もちろん未来を完璧に予測することは不可能ですが、歴史や大きなニュースなどから今後の未来の可能性をいろいろ考えることは出来ます。 そして考えられる未来に対して、最悪のケースに備えておくといった準備を早い段階から行えるようになります。


   早めに変化を察知して未来に対する対処を予め施しておく、これが私たちの生きる世界でサバイバルするための本当に大切な考え方となります。


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