Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-

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Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-

   以前の記事に書いたように、意識的にSystem2を使っていくとどんどんSystem2を使うライフが奪われていきます。 そうするとSystem2を使って意識的に考えることができなくなり、よりSystem1に頼った本能的な行動が増えていってしまいます。


   今回はそんなSystem2のライフが奪われていく現象の一つであるEgo Depletionについてです。

Ego Depletionとは何か

   Ego Depletionとは、自分の感情をグッと我慢するといった自分の本心を押し殺す行動を行えば行うほど、System2を使うためのライフが削れていく性質を指します。


   例えば上司からの命令に嫌々応じる、やりたくない宿題を我慢してやるといったことです。 こういった自分の本心とは異なる行為をすればするほど、私たちはその後にSystem2を要する行動を起こしにくくなります。


   上司からの命令に嫌々応じて心身ともに疲れてしまう日があれば、やけ酒したくなる気分になりますよね。 やりたくない宿題を頑張って行ったあとはもうゲーム三昧、ネット三昧。


   Ego DepletionによってSystem2のライフが減ってしまっているので、System1による欲望に赴くままの行動をしてしまいがちになるのです。


   System2は私たちの理性を司るパートでもあります。 つまりずっと理性を保つ、ただそれだけでも私たちは疲れてしまうのです。


   "堪忍袋の緒が切れる"というのは、まさにEgo Depletionによって引き起こされるものであると考えられるでしょう。


   相手から何か嫌なことを言われてもなんとかグッと堪えて大人の対応をしたとしても、どうしてもEgo DepletionによってSystem2を使うためのライフが削れていきます。


   一方で相手から何度も何度も嫌なことを言われた経験は、私たちの頭の中の記憶に残ります。 いくら忘れようとしても、また何か嫌なことを一度でも言われるといままでの嫌な記憶が蘇るもの。


   こうしてどんどんとSystem2が弱まっていったら、どんどん理性を失いやすくなってしまうのは当然のこと。 理性を保つ代償に感情をコントロールする力がどんどん弱まる中で、嫌な思い出が頭の中に積もり積もったら、いつしかドカーンと感情が爆発してもおかしくありません。

Ego Depletionと人を叱るリスク

   Ego Depletionという性質から見えてくるのは、相手をむやみに叱るのは逆効果だということです。


   相手に行動意欲を沸かせたり行為の改善を促すためにたまに叱ることは良いことかもしれません。 人間、思いもよらない外部からの新鮮なショックは、意識をシャキッとしたり頭を回転させる効果がありますから。


   (突然自転車にぶつかりそうになって一瞬で頭が切り替わった時や、いままで読んだことのないジャンルの本を読んで知的好奇心が刺激された時のことを思い出してみて下さい。)


   しかし変に相手を叱りまくってマンネリ化すると、Ego DepletionによってどんどんSystem2のライフが下がってしまう可能性があります。


   本質とズレた方向に相手を叱ると、相手のためを思うというよりはむしろ自分の願望を相手に押し付けることになります。 そうすると相手は感情をグッと堪えるよう理性を保つので、Ego Depletionが働いてしまいます。


   Ego Depletionが働くとSystem2のライフが減ります。 仕事ではSystem2の常時使用が求められるので、System2のライフが減ることは仕事のパフォーマンスが下がる可能性を示唆します。


   そしてより集中できなくなってミスが増えてまた叱って、System2のライフが減ってさらに仕事のミスが増え...という悪循環を引き起こしてしまうかもしれないのです。


   人によっては、相手を叱った翌日はちゃんと仕事をやっているから叱ることは良いことだと思う人もいるかもしれません。 しかしこれは叱った効果が現れたのではなく、叱った日がたまたま相手の調子が悪かっただけの可能性が高いです。


   人はその日の体調によってパフォーマンスが変わるものです。 野球選手でも、前日は4タコ(4回の打席ですべてヒットなしのこと)だったのに翌日に2本ホームランを打つとか普通にありますよね。


   よっていつもより仕事ができないからと言って、ただそれだけで叱るのはちょっと安易です。 むしろパフォーマンスが良くない日は普通寝不足や気分の落ち込みなど、System2が元々働きにくい状況にあるので、そこに叱責を加えるとさらにSystem2が働きにくくなる可能性があります。


   叱る側は、叱ることでEgo Depletionが働いて相手のSystem2にダメージを与えるリスクをしっかり認識する必要があります。

関連リンク

   ・複数の作業をこなすとSystem2が疲弊してしまいます

   →複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-


   ・不安になるとSystem2が中々働かなくなってしまいます

   →Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-


   ・System2を使えば使うほど楽に使えるようになっていきます

   →System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-


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