マイナス金利政策が私たちに与える深刻な影響とは...

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マイナス金利政策が私たちに与える深刻な影響とは...

初回公開日:2017/02/01
最終更新日:2017/02/01

 

 現在日銀や欧州中央銀行(ECB)をはじめ、いくつかの中央銀行がマイナス金利政策(NIRP)と呼ばれる金融政策を行っています。

 

 このマイナス金利政策、実はジワジワと私たちの生活を蝕んでいく腐食作用のある政策なのです。マイナス金利政策が私たちに与えるであろう影響について考えていきます。

 

 

マイナス金利政策とは何か

 マイナス金利政策とは、一言で言えば債権を腐敗させる政策のことです。

 

 普通、預金や貸し出しといった債権は利息をもたらす資産となります。しかしマイナス金利政策により、利息を意味する「実質金利」を人為的にマイナスにするため、債権から利息を得るどころか、逆に「手数料を支払う」ハメになるのです。

 

 言い換えれば、債権という「資産を"事実上の負債"にさせる」政策がマイナス金利政策なのです。これは「負債を"事実上の資産"にさせる」とも言えます。つまりマイナス金利政策はあべこべで逆しまな鏡の中の世界を生み出す、ある意味魔術的な政策なのです。

 

 実際、有史以降の人類5,000年の歴史で国家的にマイナス金利政策が実施されたという記録はありません。マイナス金利政策下にある日本(いや、世界)はいま、人類未踏の領域に足を踏み入れているのです。

 

マイナス金利政策が私たちに与える深刻な影響

 マイナス金利政策は債権を腐敗させる政策なので、債権を多く保有する者にデメリットを与えます。具体的に言えば金融機関、(年金基金などの)機関投資家、そして預金を預ける私たち一般人です。

 

 私たち一般人はマイナス金利政策によって、具体的にどのようなデメリットを被ることが考えられるのでしょうか。特にデメリットが大きいと考えられるのは次の2つです。

 

  • 購買力が減る
  • 将来受け取れる年金が減る

 

 つまりマイナス金利政策が今後も長期的に続くのであれば、私たち自身で何らかの対策を施さないかぎり、一生陰鬱で苦しい生活を余儀なくされる可能性があるのです。

 

マイナス金利政策は私たちの購買力を減らす

 マイナス金利政策によって私たちが被るデメリットの一つは、私たちの購買力を減らすことです。理論的にはマイナス金利政策により、利息に相当する実質金利がマイナスになり、預金額に比例した形で購買力が減ることになります。

 

 現在のマイナス金利幅は少ないですが、巨額のお金を扱う金融機関にとっては長期で大きなダメージとなってしまいます。そのため金融機関がマイナス金利による収益の減少を賄うために、手数料の増加という形で私たちの購買力の減少に結びつくことが考えられます。

 

 すでに三井住友銀行やゆうちょ銀行が、ATM手数料や送金手数料の一部有料化を決めましたが、今後はこうした手数料に対する負担が年を追うごとに増えていく可能性があるのです。

 

 実際、2016年秋に全国銀行協会の会長兼三井住友銀行頭取が「(マイナス金利が)深掘りされれば、(預金口座手数料導入の)検討をしなければならない事態になる」と発言しています。

 

 マイナス金利政策による金融機関の収益の圧迫は毎年定率(掛け算)で掛かるような性質のため、将来私たちにいままで掛かっていた、金額に依らずに一律だった手数料を、金額に比例する形の手数料に変更される可能性も考えられます。

 

 例えばいままでATMによる現金の引き出しが100円程度で済んでいても、現金引き出し額の1%の手数料を徴収するなどです(いま世界の経済学者の中に、現金に不利な為替レートのようなものの採用を提唱する学者もいるため、あながち空論とは言えません)。

 

 また購買力の低下は何も金融機関が利用者に与える負担増だけによってもたらされるわけではありません。長期的な日本経済の低迷による富の減少もまた、購買力低下につながるでしょう。

 

 マイナス金利政策によって一般の人々が金融機関の手数料の増加を肌で感じるようになると、人々はより一層お金を貯め込むことになります。すると消費がいっそう冷え込み、企業の収益も下がり、賃金が減少します。するとますます人々はお金を貯めこむ...という負の連鎖を生じることが考えられるのです。

 

 実際、日本の個人預金額の前年同期比成長率を見れば一目瞭然、マイナス金利政策導入後に家計はお金を貯めこんできたのです。

 

個人預金額前年同期比成長率

画像ソース:日銀

 

 さらにこうした負の連鎖は、現在でも少ない出生率をさらに低下させることにつながり、将来の労働力人口がますます減少していきます。そうやって長い年月を掛けて日本経済が衰退していき、もはや再起不可能になる未来も考えられなくはないのです。

 

 このようにマイナス金利政策が長期間続くと、購買力が減少していき、私たちの生きる活力をも奪っていくという残酷な未来すら考えなければならないのです。

 

マイナス金利政策は将来受け取れる年金額をますます減少させる

 さらにマイナス金利政策は将来受け取れる年金額にも悪影響を与えます。

 

 公的年金、企業年金などは年金積立金を運用していますが、マイナス金利政策が続くと運用益が伸び悩み、当初必要とされていた積立金を将来確保することが困難になってしまいます。

 

 というのはマイナス金利政策によって債券利回りは場合によってはマイナスになりますし、利回り確保のために投資家が株式に資産を振り向けるため、株式の利回りも下がってしまうからです。

 

 さらにマイナス金利政策が続くと、効果がある間は債券や株式の市場価格が高位に維持されやすくなり、債券や株式の購入価格が上がります。その結果積立金が市場の変動に弱くなりやすくなり、市場価格が大きく下落したときのダメージも大きくなるのです。

 

 その結果積立金の取り崩しを余儀なくされ、最終的に年金積立金が枯渇する状況に陥ります。マイナス金利政策はバブルを維持する機能もあるので、バブル崩壊の規模が大きくなる可能性もあり、年金積立金の枯渇が早まるリスクもあります。

 

 公的年金について、2014年の財政検証で想定された最悪のシナリオでは名目運用利回りは2.3%は確保できるとしていますが、このシナリオをより現実的に修正した場合に2039年頃には年金積立金が枯渇するとの試算があります。

 

 ただ、公的年金積立金のポートフォリオの半分以上は利回りの小さい債券や短期資産なので、長い目で見て名目運用利回り2.3%を達成することすら厳しそうです。少なくとも2016年以降の公的年金積立金の収益率をみるかぎりはそう言えます。

 

 そう考えると、マイナス金利政策が続いてバブル崩壊が先延ばしになっても、2030年代には年金積立金は枯渇しそうですし、バブルが崩壊すれば枯渇はもっと早まる可能性があるわけです。

 

 いずれ公的年金積立金がなくなっても年金支払いがストップするわけではありませんが、年金額が減ることは間違いありません。今後は積立金からどの程度の額をどのくらいの期間、取り崩せるかが年金支払額に影響することでしょうが、マイナス金利政策は取り崩しによる年金支払いの余裕を狭めてしまうのです。結果、年金額の減少スピードを速める方向に作用するでしょう。

 

**********

 

 何だか救いようのない文面になってしまいましたが、それだけマイナス金利政策の継続は長期で救いようのない未来をもたらしえるのです。

 

 マイナス金利政策というのは、将来の購買力を目減りさせるという意味ではハイパーインフレと変わりはありません。購買力の目減りが短期に急速に進むか、長期でゆっくり進むかの違いだけなのです。

 

 世の中を見渡すと、長期でゆっくり進む衰退のほうが実は残酷な結末を迎えることが少なくありません。ローマ帝国の衰退もそうですし、農作物の生産過剰による土壌劣化もそうですよね。長期でゆっくり進んでいった衰退が行き着くところまで行き着くと、その後元通りに回復するまでに何百年もの期間を要するものです。

 

 そういう意味で、マイナス金利政策は非常に怖い性質をもっているのです。早め早めに個人的に何らかの対策をとることが重要であると言えるでしょう。

 

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金価格と実質金利との関係

画像ソース:Incrementum

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