配当再投資のメリット:長期的に高インフレをチャンスに変えられる
初回公開日:2016/07/20
最終更新日:2020/10/27
今回は配当再投資とインフレについてです。
インフレは私たちの資産を長期複利的にかすめとっていく悪魔のような存在であり、私たちは絶対にインフレ率を上回るリターンを獲得しなければいけません。そうしないと購買力の低下をだまって見過ごすことになりますから。
実は株式投資戦略である配当再投資は、リスクの中で最も恐ろしいリスクである「インフレリスク」にも長期的に強くなるという大きなメリットがあるのです。
高インフレは長期投資を成就させるための絶好期間
「株式はインフレに強い」という言葉を訊いたことがあるかもしれませんね。
この言葉は短期的には嘘です。高インフレが起こりだすとむしろ投資家心理が冷え込んで株価が下がりだすこともあり得るので、高インフレ期の購買力維持のために株式ばかり保有しておくのは危険を伴います(購買力を維持するためにはゴールドといったインフレを織り込みやすい資産で持つことが重要)。
しかし中長期的なスパンで見ると、株式は高インフレに確かに強い傾向にあるのです。
配当再投資を行う長期投資家の観点から言えば、高インフレ期は絶好の株の投資期間だと言えます。
配当再投資を行うときに大切となるのは配当利回りでしたね。その時々の配当利回りが株数の増加率となるので、配当利回りが高い期間が続くほど株数が長期的にグーンと伸びて、資産価格も受取配当金も大きく殖えるのです。
アメリカでは1910年代後半、1940年代半ば、1970-80年代前半あたりに高インフレになったのですが、その頃の配当利回りを見てみると、いずれもその前後よりも配当利回りが高くなっている傾向にあります。
ソース:ONLINE DATA ROBERT SHILLER
高インフレ期には株価が低迷する傾向にあり、配当利回りの分母が小さくなることが一番大きな要因です。高インフレ期間には配当自体も一時的に落ち込んでしまう場合もあるのですが、それ以上に株価が下落しやすいので配当利回りが高くなるのです。
しかし高インフレ時は配当利回りが高いだけではダメです。というのはいくら配当利回りが高くなり株数を殖やせても、株価や配当金の成長率ががインフレ率に追いつかないと実質のリターンは減ってしまい損したことになりますから。
実際のところどうなのでしょうか?下図は10年移動平均で見たときの前年比株価成長率(青)、配当成長率(橙)、インフレ率(緑)を表しています(株価、配当はS&P500銘柄)。
ソース:ONLINE DATA ROBERT SHILLER
インフレ率である緑線が高い位置にある部分に着目すると、次のようなことが見えてきます:
- インフレ率が上昇し始めた段階では株価成長率、配当成長率ともに低い
- インフレ率の上昇に後追いする形で、株価成長率、配当成長率は増えていき、いずれはインフレを大きく上回る成長を果たす
- 1970-80年代の高インフレ期においては、株価成長率は少ないが配当成長率が大きく貢献してきた
こうしてみると株式は高インフレが起こり始めた時期には実質リターンがマイナスになることは十分考えられますが、長い目で見れば株式はインフレに強いことがわかります。
さらに1970-80年代の高インフレ期には配当成長率が大きく貢献してきました。これにより配当再投資を行っていれば、この期間のリターンは実質ベースでも損失は大分抑えられることがわかります。さらにインフレが終息したら実質配当金もグッと増えていますね。
一つとても重要な指摘があります。実は上図の青+橙の棒が緑のインフレ率に追いついていなくても、青+橙がそこそこプラスであれば実質ベースでの損失はかなり限定されることです。というのは配当再投資によって株数が殖えるので、株数成長率もリターンに寄与するからです。
例えばインフレ率が10%、株価+配当の成長率が合計で5%としましょう。このとき実質では-5%のリターンのように見えますが実際には違います。というのは前年分の配当再投資によって株数が殖えているからです。
配当再投資を行う投資家にとっては「株価成長率+配当成長率+前年の株数成長率」が本当の名目成長率ですからね。
もし前年の配当利回りが5%であれば、株数も5%程度増えるので実質リターンはプラスマイナス0でしょう。もし前年の配当利回りが7%あれば、実質では+2%のリターンとなります。
えぇ、1970-80年代のような長期の高インフレが続いても、配当再投資を行えば長期的には実質プラスのリターン、つまり購買力ををほとんど維持したまま株数だけを複利的に増やせるというわけです。
そして高インフレの波から抜け出し、インフレ率を上回る株価や配当のリターンが達成されれば、いままでの株数増加と合わせて実質リターンをドカーンと殖やせるというわけです。
以上のことを考えると、インフレ率が急増していたり高止まりしているときこそ株式の購入や配当再投資を行う大チャンスなのです。
高インフレには購買力を維持するためにゴールドといった資産をあらかじめ保有しておくことはもちろん大切です。しかしインフレに備えた短期的な資産防衛だけではなく、インフレが落ち着いた後も見据えて安値で株を仕込んだり配当再投資を行うという攻めの姿勢も重要なのです。
勇気を出して高インフレ期にも株式に配当再投資できれば、いずれものすごいリターンを得られるかもしれませんよ。
追記。上は米国株全体の話です。銘柄の中には配当成長率が高い銘柄もあります。安定して長期成長可能で、キャッシュリッチな優良企業に多いです。
ポートフォリオを配当成長株中心にし、そのうえで配当再投資をすると、ますますインフレに強い複利運用が可能となります。
またインフレ率よりも高い配当成長率の銘柄であれば、資金の引き出しが必要で一時的に配当再投資を停止しても、購買力が落ちることはありません。
配当利回りだけでなく、配当成長率も重要であることを覚えておいてください。長期的に配当成長率が複利効果の大きさを決定づける最大の要因になります。
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