キャッシュレス社会×マイナス金利=??

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キャッシュレス社会×マイナス金利=??

初回公開日:2016/10/14
最終更新日:2017/01/20

 

 今回はブリオンボールトや金投資に直接関係ある話題ではありませんが、金投資される方にはおそらく興味があるであろう、今後の資産防衛や心豊かな未来を送るうえで知っておくことが大切なことについて話したいと思います。

 

 キーワードは「キャッシュレス社会」と「マイナス金利」。そしてこの2つが組み合わさると...

 

 

世界はキャッシュレス社会に向かっている

 現在、北欧を中心に「キャッシュレス社会」への移行が進展しています。キャッシュレス社会とは現金による決済が主流でなくなり、デビットカードやクレジットカード、スマホの決済アプリ、仮想通貨等を利用した電子決済やモバイル決済が主流になる社会のことです。

 

 例えば下図はモバイル決済額の推移を表していますが、2009年以降現在までに年率42%という急激なペースでモバイル決済化が進んでいます。

 

モバイル決済額の推移

画像ソース:Credit Suisse

 

 下図は消費者の全取引に占める非現金決済の割合を国別に表したものですが、シンガポールでは消費者の61%がデビットカードやモバイル決済といった非現金決済を利用しています。全体的には欧州の北側の国々でキャッシュレス社会が浸透してきていることがわかります。日本ではまだ少ないです。

 

国別の電子決済の割合

画像ソース:MasterCard

 

 法的にもキャッシュレス社会への道を歩んでいることがわかります。例えばフランスでは1,000ユーロ超、イタリアでは3,000ユーロ以上の取引では現金決済が禁止になっています。

 

 インドではアメリカ大統領選投票日にあたる2016年11月8日に、モディ首相が突然高額紙幣の通用禁止を宣言してインド中を大パニックに陥れましたが、その真の狙いがキャッシュレス社会への移行であることをモディ首相が明言しました。

 

 他にもドイツスイスノルウェー、スウェーデン、デンマークなどでも一定額を超える現金決済を禁止にしようとの動きが出てきています。

 

 キャッシュレス社会というのは現金決済が制限されるだけではありません。現金自体の廃止や現金の保有・退蔵のインセンティブを削ぐこともキャッシュレス社会の特徴の一つです(詳しくは後述)。すでに欧州中央銀行(ECB)は500ユーロ札の発行を2018年までに終了することを発表しています。

 

 500ユーロ札発行終了の理由としてECBはマネーロンダリング防止をあげていますが、500ユーロ札がマネーロンダリングを促進しているとの客観的データや証拠はないようです。

 

 またECBは近年500ユーロ札の人気がフラット化してきたとも主張していますが、ECBによる500ユーロ札発行終了の最初のアナウンスが流れた2016年2月の段階で500ユーロ札は6億ユーロ以上流通しており、金額ベースで流通している全ユーロ札の28%にも相当と、50ユーロ札に次いで多いのです。

 

 わかっているのは、500ユーロ札はリバタリアンの象徴であり、一般市民が場所を取らずに高額資産を現金として退蔵するための手段としてとても優れていることです。

 

 →【参照:Bloomberg】Hands Off the 500-Euro Banknote

 

ユーロ札流通量の推移

画像ソース:ECB

 

 

 キャッシュレス社会への移行は私たちの「現金保有の自由」の制限とも深くかかわっているのです。

 

 こうしたキャッシュレス社会への移行はフィンテックの隆盛と軌を一にしており、2045年あたりに完全移行するとの見方もあるようです。

 

キャッシュレス社会×マイナス金利=??

 リーマンショック以降、一部の経済学者や金融関係者から、現金廃止や、廃止まではいかなくとも現金の保有や退蔵のインセンティブを削ぐような政策の導入を主張する声が出始めました。

 

 例えばハーバード大学経済学教授ケネス・ロゴフ氏、コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツ氏、シティグループ・チーフエコノミストのウィレム・バウター氏、ミシガン大学経済学教授のマイルズ・キンボール氏などです。

 

 彼らは自身の論文や国際フォーラム等で「現金の廃止、デジタル通貨への移行」「現金への課税」「現金と電子マネーとの間に変動レートを設定(現金に不利なレートを導入して現金保有のインセンティブを減らすということ)」といった主張をしており、現在進行中です。

 

 何故一部の経済学者や金融関係者の間で、現金を廃止したり一般の人々の現金保有のインセンティブを削ぐような政策の提言が跋扈しているのでしょうか。

 

 そこにはある共通のアイデアがあります。そのアイデアとは「現金がなくなればマイナス金利の深堀によるデフレ脱却効果を高められる」というものです。要は現金廃止が景気回復をスムーズに達成するための極めて重要な手段だと考えられているのです。

 

 今後先進国では趨勢的な少子高齢化の進展や労働力人口の減少、改善しない労働生産性等によって経済成長率が長期低迷すると見込まれています。こうした経済の低迷期はインフレ期待も低迷することが予想されるため、デフレから脱却するための金融政策としてマイナス金利の深堀が重要だと考えられているのです(そうすることでインフレ期待が小さくても実質金利をマイナスにできるいうわけ)。

 

 マイナス金利政策を導入すれば、金融システムの中にあるマネーから手数料を徴収し、それを実体経済に還流させることでデフレから脱却できると考えられています。しかし金融システムの外にあるマネーを穏やかな金融政策によって自由にコントロールする仕組みは現状ありません。

 

 一般の人々はマイナス金利が導入されれば、預貯金から手数料が徴収されるのを防ぐために現金を引き出して退蔵するものです。しかしそうされると多額のマネーが金融システムの外に出て行ってしまい実体経済に還流させられなくなるので、マイナス金利の有効性が薄れてしまうと経済学者たちは考えているのです。

 

 だったら現金廃止、ないしは何かしら現金保有のインセンティブを削ぐ制度を設けることで、マイナス金利導入時でもすべての人々にお金を回していただける社会を目指しましょう、そういうことなのです。こうした目標は今後のフィンテックの発展に伴うキャッシュレス社会の実現によって達成可能です。

 

 仮に現金が廃止になったり現金の流通量が減れば、世界中のマネーは金融システムの中に預けられることになります。そうなればマイナス金利下では世界中の人々のマネーから手数料を簡単に徴収できるようになり、実体経済に回せるようになるのです(本当に実体経済に回るかどうかはまた別の話ですが)。

 

 『マイナス金利政策 3次元金融緩和の効果と限界』という本では、マイナス金利政策のメリットの一つとして「仮にキャッシュレス社会が実現し、ゼロ金利制約がなくなれば、デフレに陥るリスクが低下する」とあげられており、さらに次のようにも述べられています。

 

企業や家計の現金保有増が加速している場合には、マイナス金利政策の有効性を維持するために現金供給量を制限することも必要になろう
マイナス金利の下限を超えてマイナス幅を拡大する政策を進める場合には、・・・現金の廃止を目指したキャッシュレス社会の実現にコミットすることによって過度の現金保有を抑制することが求められる
マイナンバー制度と預金口座に接続したカードの使用により、キャッシュレス社会を実現することが可能になる

 

 このようにキャッシュレス社会とマイナス金利は密接につながってるのです。この二つが結びつくことで待ち受ける可能性のある未来とは、ズバリ次のようなものです。

 

 「現金を廃止し、当局が自由にカネの流れを監視できる金融システムに人々のお金を閉じ込めることで、景気回復、デフレ脱却の名のもとに、時の為政者が一般の人々の資産から手数料を徴収することがより簡単にできるようになる」

 

 驚くことはありません。マイナス金利によって預貯金に手数料が掛かるのではないかという皆さんがもつ漠然とした不安、これが文字通り現実化しやすくなるだけの話です。そしてこの未来が実現した場合、マイナス金利幅は-0.1%、-0.4%といったちゃっちいものではなく、-2%、-3%、いやもっともっと深堀されていくことでしょう。

 

キャッシュレス社会とマイナス金利が組み合わさった未来を長期的目線で捉えることが大切

 キャッシュレス社会とマイナス金利が組み合わさった未来、これは短期的目線で捉えるのではなく、長期的目線で捉えることが大切だと考えています。

 

 キャッシュレス社会実現への取り組みは、フィンテックへの流れがもはや世界的な潮流となってきているので趨勢的に進展していくでしょう。日本ではどの程度キャッシュレス化が進むのかはわかりませんが、世界中の多くの人々が電子決済を始めとした様々なフィンテックサービスを便利なものとして認識し、こうしたサービスが骨の髄まで当たり目になるような社会の到来は十分あり得ます。

 

 一方マイナス金利政策についてはどうか。現在日銀、ECBなどで行われているマイナス金利政策はもしかしたら今後数年以内に終わりを迎えるかもしれません。

 

 経済が上向いたわけでもなく、インフレ率も低迷したまま、為替も上がるし、金融機関の財務体質を弱らせていき、消費よりも貯蓄が増え、金庫の需要が増えて現金退蔵者が増し、住宅価格の急騰といったバブルを生み出しただけですから。

 

 マイナス金利政策が当初の目論見とは真逆の効果を生み出し続け、事実上の失敗であることは世界的な常識になってきていると言わざるを得ません。よって現行のマイナス金利政策を長期で続けていくのは容易ではないと思います(ただ長期で続く可能性も否定はできません)。

 

 しかし現行のマイナス金利政策がもし終了したからといって、将来マイナス金利政策が二度と起こらないかというと、そんなことは全く言えません。むしろ今回の大々的なマイナス金利政策が先例となり、いずれまたデフレ脱却のツールとしてマイナス金利政策(または見た目は異なっても本質的に同様な政策)がとられる可能性は十分あるのではないでしょうか。

 

 そもそもマイナス金利の導入や深堀というのは、先進国の長期的経済成長の低迷という「ほぼ確定した未来」が背景にあるわけです。よって今後頻繁にやってくるであろうデフレが来るたびにマイナス金利政策(や導入の背景が同様の類似の政策)が再び話題にのぼることは十分考えられるわけです。

 

 金融政策では先例が重要な役割を果たすという歴史的な側面も見逃せません。例えば現在日銀やECBで行われている量的金融緩和も、18世紀のジョン・ローによる王立紙幣の発行~ミシシッピ・バブルや、満州事変~敗戦までの日銀による国債引き受けといった、大まかに見て類似した政策が先例として存在していたなかで行われています。

 

 今回の大々的なマイナス金利政策についても、確かに人類5,000年の歴史上初めての政策ではありますが、「(現金・預貯金を一括りにして)貨幣保有に手数料を課す政策」という抽象化した観点でみれば、100年以上も前にドイツ人の社会運動家であるシルビオ・ゲゼルが「スタンプ貨幣」の導入を提唱したことですでに理念上の先例はあったのです。

 

 ※スタンプ貨幣とは、取引回数や発行からの経過時間に応じて減価されていく貨幣のこと

 

 さらに世界恐慌のときにアメリカで無数のローカル貨幣が一時的に勃興した時代にも、何百もの地域でスタンプ貨幣が一時的に導入されており、貨幣に手数料を取る政策がローカルレベルですが実際に行われたのです(→ソース)。

 

 (このときは発行額が少なく規模が小さい場合には成功した事例もあるようですが、ある程度の規模でスタンプ貨幣を導入した地域では数年で減価となり、ローカルレベルでさえもスタンプ貨幣というシステムは事実上上手く行かなかったようです。)

 

 つまりマイナス金利政策は、少し抽象化した視線で見れば、理念レベルでも実証レベルでも先例のある政策を別の形に焼き直した政策とも見れるわけです。

 

 スタンプ貨幣など振り返らなくても、もう既に日銀やECBなどがマイナス金利政策を導入したという事実は今後の歴史に永遠に刻み込まれますから、20年、30年、50年、100年先ではもはやマイナス金利政策は先例のある政策であり、ほとんどの人々がマイナス金利政策の過去を忘れてしまった頃には再導入のハードルは低くなっているわけです。

 

 このようにマイナス金利政策導入の背景や、新しい金融政策の導入には何かしら大まかに類似した先例がつきものであるという歴史的観点を踏まえると、20年、30年、50年先に、マイナス金利政策そのものや本質的に同様な政策が、キャッシュレス社会とリンクしながら取られるのではないか、そう考えられるわけです。

 

 これがキャッシュレス社会とマイナス金利が組み合わさった未来を長期的目線で捉えることが大切だと考える理由です。

 

 最後にこうした可能性のある未来への対処法ですが、対処法はシンプルです。「通貨を必要以上に持ちすぎない」「通貨をそこまで利用しなくても済むような生活を送る」といったことを実践していけば良いわけです。

 

 余剰資産を株式や貴金属など別の資産に分散投資したり、必要以上にモノを購入せず衣服や日用品等を大事に使ったり、シェアを活用したり、普段から健康に気を遣い必要以上に医者に面倒を見てもらわないようにしたり、野菜を少し自分で育ててみたり、地域社会との結びつきを強くしたり...

 

 私もすべてを実践できているわけではないのであまり偉そうなことは言えませんが、通貨やお金への過度の依存をいかになくせるような生活基盤や精神・思考を築けるか?これが10年、20年、もっと先の未来を見据えたときに、多少なりとも心豊かに暮らすために重要になってくるのではないでしょうか。

 

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画像ソース:Zero Hedge

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