単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-

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単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-

   繰り返し晒されるだけで親近感や好意が生まれてしまう現象である、単純接触効果(ザイオンスの法則)。 単純接触効果はマーケティングや恋愛テクニックの分野で特に認知されています。


   しかし単純接触効果を誰もが生かせる大切なフィールドを皆さん忘れています。 それは学習の場です。 学習こそ単純接触効果、繰り返しの力を活かす最高の場だと私は考えています。

単純接触効果を学習に応用する

   繰り返しによって親しみを感じられる人間の性質は私たちに学習のヒントを教えてくれます。 それは次の一言に凝縮されます。


   まず量こなせ、話はそれからだ!


   一体これはどういうことを意味しているのか。 エッセンスは次の二つです:


  1. 最初は細かいことはいいからとにかく量をこなして、単純接触効果によって学習対象への親近感を植えつける
  2. そのうえで質や効率を徐々に追い求めていく

   これから上のアイデアに関する具体例を3つ紹介します。 初めに断わっておきますが、これから紹介する具体例はすべて私の経験に基づいています。 単純接触効果を都合よく使って頭の中で考えた「ぼくがかんがえた最強の学習法」とは断じて異なります。


   私の経験を振り返ると、実は単純接触効果を知らない間に有効活用していたというのが正しいです。


   私は新しいことを学ぶことが好きで、これまでに数学、英語、心理学、投資などいろいろなことを自分なりに学習してきました。 そうした経験を振り返ったときに、結局学習の王道は「とにかくまずは量をこなして、そのあとでだんだんとクオリティや効率を求める」に行き着いたのです。


   使えそうだと思ったらぜひ実生活に生かしてみてください。

例1:読書

   大人になったときに「子供のときからやっておけば良かった」と後悔する習慣の常連である読書。 かくいう私も実は読書を本格的に始めたのは大学院を卒業し社会人になってからです。


   それでも400ページ越えの和書や洋書(日本語に訳すと400ページ~800ページくらいのボリュームのもの中心)をいろいろ読んで経験を積んできました。


   その中で一つわかったことがあります。 それは...


   1周目は準備運動、2周目が本番だと思え!


   1周目はあまり細かいところは気にしないでどんどん読み進めていくのです。 そして2周目に入ってから本格的に内容をしっかり意識して読んでいくのです。 そうすることで、2周目に本格的に読む際に頭の負担を大きく減らしながら内容の理解に集中することができます。


   この作戦は洋書を読む際には特に重要です。 母国語でない文章を初めから内容を意識して読もうとしても、よくわからない単語があちこち出てきたときのイライラが溜まるのでそうそう簡単に読めるものではありません。


   そこで1周目は文章に慣れることを最優先にして、2周目になってから本格的に内容を意識して読んでみてください。 びっくりするくらい洋書を読みやすく感じる自分に気づきます。 まるで魔法に掛かっているみたいに感じますよ。

解説

   初回時に本を読む時と2回目以降に本を読む時との決定的な違いは、本の全容を感覚的にざっくりと理解できているかどうかです。


   いくらイントロダクションで内容の概要をわかった気になっても、メインの文章を読んで初めて、イントロダクションだけではわからなかったその本独自のユニークな感覚がわかるものです。


   こういった独特の感覚を身につけていることは、本の内容を真に理解するためにとても役に立ちます。 何故なら、既に概要を感覚的に理解しているという"余裕"によって意識的に内容を理解する余裕が生まれるからです。


   1周目は探り探り本を読んでいく段階。 言うなれば初見のダンジョンや迷路を試行錯誤しながら出口を目指していくようなもの。 こんなあたふた駆け巡っているときに意識的に一度でマップを全部覚える余裕ってありますか?


   しかし一度とりあえず読み終わると、それだけで単純接触効果によって本に対する親しみが無意識のうちに生まれています。 一冊本を読み終えたという自信が生まれます。 本の内容をざっくり理解したという優越感に浸れます。


   要はありとあらゆるCognitive Easeが働いて、いい感じの安らぎを感じられるのです。


   Cognitive Easeが働いて得られる安らぎは私たちの行動のモチベーションになります。 そんなモチベーションがある状態だと、2周目読むときはもっとしっかり内容を理解しようという気持ちが自然と生まれてくるものです。


   こうして1周目ですべてを理解するよりも、格段に頭の負担を減らして内容の理解に努めることができるようになるのです。


   ビジネス書なんかにありがちな、一冊の分量が少なく内容が薄いコピーライティングばかり意識している読みやすい本であれば、別に1回目で大体内容はわかるでしょう。


   しかし密度の濃い本や洋書といったよりレベルの高い本を読む時は、1回では内容を大して理解できないことをむしろ普通だと思ってください。 1度読んだだけでわかったフリして優越感に浸って満足するのは個人の勝手ですが、読みごたえのある本を一度でかなりのレベルまで理解できることはないと思ってください。


   読みごたえのある本は2回読んでようやく真に理解できてくるもの。 かなり高度な本になると、3周目が必要なこともあります(実際私はナシーム・タレブの名著「Antifragile」を理解するのに3周必要でした)。


   内容にものすごく共感して理解したい気持ちが強い本であれば、たった1回の読了で満足するのはもったいないです。 初回の読書は肩慣らし、2周目からが本番です。

例2:英語の学習

   続いては英語の学習です。 私は英語の勉強を本記事執筆時は既に4年以上行っています。


   英語の勉強を振り返ってとても大切だと思ったのは、多くの文章を読んで英語に身を晒しまくること。


   多くの文章を読むことは最初は辛いです。 よくわからない単語がいっぱい出てきますし、慣れないうちはすぐに疲れてしまいます。


   しかし量をこなすことによって、意味はわからなくてもよく出てくる単語に出くわすようになります。 意識しなくても、たくさん英語に晒していくと「あっなんか見たことある」と直感で思えるようになります。 単純接触効果によってCognitive Easeが働いたのです。


   こうした直感が働くと、別に意識しなくても単語の意味が気になるようになります。 意味が気になってむしろ調べないと気がすまないような状況になるときさえあります。


   そうなればしめたもの。 あとは自分の欲望が赴くままに、ネットなり辞書なりで知らない単語をガンガン調べていきましょう。


   このように繰り返し英語のシャワーを浴びることは、意識的にそこまで頑張ろうとしなくても英語の勉強を進めるためのモチベーションアップにつながるのです。


   いま思うと、学校での英語の学習はあまりにも分量が少なすぎます。 文法を覚えることでいかに効率よく英語を学習するか、そういう部分に重きが置かれすぎているような気がします。


   文法を覚えることは大切ですが、たくさんの英語を読んだり聞いたりするといった、量を意識した学習は絶対に必要です。 別に毎回意味を調べさせたり訳したりたりする必要はありません。 ただ好き勝手に読んだり聞いたりして英語の量を増やす、ただそれだけです。 さらに音読や聞いた音をそのまま真似て喋る(シャドウイング)となおよいです。


   英語の学習で最も重要なのは、間違いなくたくさんの英語に触れることによって英語独自の"感覚"を養うことです。 そしてたくさん触れ合うことで無意識のうちに英語に対する親近感を生み出すことです。 質はそのあと追い求めていけば十分だと思っています。

注意

   注意を2点ほど。 1点目は、読んだり聞いたりするだけでは書いたり話したりすることはできません。 ちゃんとライティングやスピーキングの経験を積まないと無理です(ちなみに私は書いたり話したりするのは苦手なので偉そうなことは言えません)。


   ただし英語独自の感覚を養うという意味では、読んだり聞いたり(特に読むこと)はめちゃくちゃ役に立っていることを改めて実感しています。


   2点目は英語の感覚を養うためのたくさんの分量というのが実際にどのくらいの分量かということです。


   正直なことを言うと、英語の感覚を養うにはあなたが考えている分量の100倍は必要だと思ってください。 年単位の努力が必要です。 語学の習得はあなたが考えている以上に険しい道のりを乗り越えなければならないのです。


   実際私は洋書、英語ニュースサイト(ブルームバーグ、Sputnik等)、英雑誌(The Economist等)、英論文や英語版Wikipediaを読んだり、BBCといったニュースを聞いたりする経験を3年間休みなく継続して行って、ようやく英語の真の感覚というのがわかり始めてきました(まだまだ成長過程にあります)。 実情はこんなものなのです。


   ただし安心してください。 英語に対する親近感はそれよりもずっと少ない期間で生まれるので大丈夫です。 3ヶ月~半年程度がんばれば、英語に対する前向きな気持ちが生まれると考えてください。 こうした段階にさえ到達できれば、ずっと楽に英語に向きあっていけることでしょう。

例3:サイト運営

   最後にサイト運営についてちょっとだけ。 サイトを運営して不特定多数の人に情報を提供したいと思っている人も、まずはとにかく量をこなすことが大切です。


   完璧を求めなくてよいので、とにかくまずは量をこなしまくって慣れることが先決です。 そうすれば最初は面倒なサイト運営も、だんだんと単純接触効果によって親近感や好意が生まれます。 こうした気持ちによってサイト運営することがむしろ普通になっていきます。


   そうする余裕が生まれてきて初めてクオリティや効率を求めてもまったく遅くありません。 初期に書いた文章を見直して、修正やさらなる肉付けを行うのも良いでしょう。

まずは無意識に行動を起こすためのエンジンをつくることから

   3つの例をあげて単純接触効果を学習に応用することがどういったものかを説明してきました。 言いたいことはただ一つで、「まずは量、その後に質や効率を求めろ」ということです。


   人はどうしても最初から質や効率を求めがちです。 特に効率化や最適化が叫ばれる昨今の世の中では、そうした「最初から上手くやる」という考えが常識のようになってしまっています。


   しかし初心者がいきなり効率化などといった高尚なことを考えても、かえって負担が増えて挫折を早めるだけです。


   何をやるにも、一番最初に重視するべきことは上手く行うことではありません。 やる気を高めて無意識に行動を起こせるエンジンの構築が最も重要です。 そしてそういったエンジンを構築するためには、継続して量をこなす以外にありません。


   そういう意味で、細かいこと、効率化、最適化なんてまるっきり無視して、ただひたすら量をこなす。 こうしたことはものすごく大切だと思っています。


   量をこなしただけでパーフェクトになることは不可能です。 必ず質を高める努力も必要になってきます。 英語を繰り返し聞くだけで英語をマスターできるなんてことは思ってはいけません。


   しかし一度エンジンを構築することが出来れば、自然と質を追い求められるようになります。 様々なアイデアも生まれるようになって、どんどん前へ進めるようになります。


   上手くやることではなく、どうすれば長い間モチベーションを保てるか。 ここにスポットをおくことが、長期的にみて最も効率よくするための正しい考え方なのです。

関連リンク(英語関連)

   ・私も読んでるThe Economist誌。一緒に読んで英語力をアップさせませんか?

   →The Economist誌(記事一覧へ)


   ・英語は連想を自由自在に操ることで学習能率が一気にアップします

   →プライミング効果を英語学習に生かす


   ・様々な物事の背景を知ると英語学習はますますはかどります

   →英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-

関連リンク(心理関連)

   ・効率を求めずにまずは量をこなすのが大切な理由

   →単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-


   ・単純接触効果とは何か

   →単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-


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