米国の自国優先主義は海外の金持ちを惹きつける

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米国の自国優先主義は海外の金持ちを惹きつける

2018/04/02

 

【2018/04/02 日本経済新聞】財産調書は「様子見」多く 富裕層の海外資産捕捉も

 

国際的な税務情報の共有の仕組みには、富裕層の資産の捕捉を主な目的とする「CRS(共通報告基準)」もある。各国・地域の税務当局が金融機関から口座情報の報告を受け、自動的に交換するものだ。租税回避地を含む100以上の国・地域が参加。日本も2018年9月末までに、この枠組みに加わる予定だ。

 

 米国だけはCRSへの参加を見送った。さてその結果は?

 

米国の自国優先主義は海外の金持ちを惹きつける

 CRSにより、例えば日本居住の日本人がスイスに金融口座をつくったとき、次のようなルートでその口座情報が日本の税務当局に渡ることが可能となります。

 

 「スイスの金融機関→スイスの税務当局→日本の税務当局

 

 逆にスイス居住者が日本に金融口座を開設したときも、同じようにスイスの税務当局にその日本の口座情報が渡ることになります。

 

 

 CRSには100以上の国や地域が参加しますが、実はある国が参加していません。

 

 それは「米国」です。

 

 米国は外国口座税務コンプライアンス法(FATCA、ファトカ)という米国税法を2010年3月に制定しました。FATCAは米国の税金を逃れるために海外(米国以外)の金融機関の口座に資産などを隠すことを防止するために制定された法律です。
【じぶん銀行】FATCAとは何ですか?

 

 FATCAは海外に影響を与える法律なので、米国はFATCAの二国間協定を現在までに113の国や地域と締結しています。
【米国財務省】Foreign Account Tax Compliance Act (FATCA)

 

 CRSはFATCAをベースに設定された制度であるため、米国は「類似した制度に新たに参加する必要はない」としてCRSの参加を見送ったのです。
【EY】CRSとは(CRSの概要とスケジュール)
【tax justice network】NARRATIVE REPORT ON USA

 

 

 しかしCRSとFATCAには大きな違いがあります。

 

 それはCRSは「参加国間で口座情報をやり取りする」という双方向のやり取りが生じる制度であるのに対して、FATCAは「非米国が米国に口座情報を渡す」という、一方向のやり取りしか生じない点です。

 

 仮に米国がCRSに参加していれば、「米国人が日本に開設した口座情報→米国税務当局(IRS)」および「日本人が米国に開設した口座情報→日本税務当局(国税庁)」という2つの情報のやり取りが日米の税務当局間で行われることになったはずです。

 

 しかしFATCAのもとでは、「米国人が日本に開設した口座情報→米国税務当局」というやり取りは定められていますが、「日本人が米国に開設した口座情報→日本の税務当局」というやり取りは定められていないのです。

 

FATCA概念図

画像ソース:pwc ※PDFファイル

 

 

 これは何を意味するのでしょう。

 

 米国政府は「資金流入はウェルカムだが資金流出は困る」という立場を、国際協調以上に重要な姿勢だと考えているのではないでしょうか。

 

 トランプ政権のもと、米国はこれまでの覇権を弱めて国内回帰を強めていますが、それは米ドルの基軸通貨の地位を揺るがし、米国の国力低下を招き、それが米国に対する信用低下につながり、世界からのお金が集まらなくなるリスクがあります。

 

 米国は基軸通貨としての地位を最大限利用し、借金(米国債)で購入した安い海外製品の消費を通じて経済成長率を維持してきましたが、今後はこうしたGDP成長のやり方が通用しなくなるでしょう。

 

 消費の奨励で貯蓄率が下がり、財政赤字を拡大させてきた米国にとって、経済を復活させるには海外の資本を実体経済に投入することが求められるでしょう。

 

 よって米国政府は資金流出を防ぎ、資金流入を増やすことを最重要政策の一つだと考えているのではないでしょうか。

 

 この見方は、トランプ政権が昨年末に成立させた税制改革法案にも顕れています。

 

  • 法人税減税、設備投資の即時償却→海外企業が工場の建設等により直接投資を増加させる。そして将来の税収増につなげたい
  • レパトリ減税→米国への資金流入の増加
  • 税源浸食・租税回避防止税(BEAT)→米国内の企業から米国外の関連企業への支払いに課税する仕組み。例えば日本企業による、「米国子会社→日本の親会社」へのロイヤリティ支払いが課税対象となる可能性あり

 

 

 米国がCRS不参加を表明したとの報道が出たのは2016年3月のことです。
【2016/03/07 INTERNATIONAL INVESTMENT】US and OECD showdown seen looming over CRS

 

 米国の非居住者向け金融サービスのシェアは2015年→現在までに14%も増加し、22.3%となりました(世界トップ)。たった3年でシェアが14%も上昇したのですよ(2015年:約8.3%→現在:22.3%ということ)。とんでもない飛躍です。

 

各国のオフショア金融サービスのシェア

画像ソース:tax justice network

 

 これは米国がCRS不参加を表明したことで、口座情報が居住国の税務当局に知られるリスクが低まったとして喜んだ海外の富裕層が、こぞって米国に資産を移した結果なのではないでしょうか。

 

 また米国が経済成長のために海外資本の流入を最優先に考えているのだとしたら、米国政府が海外資産に厳しい規制(厳しい出金制限や資産没収等)をかけることも考えにくく、富裕層が下手な心配事をせずに済むことでしょう。

 

 今後も米国は非居住者向け金融サービスの最先端国の一つとして発展していきそうですね。

 

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