【賃上げ?】経済再生意欲が感じられない来年度予算政府案

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【賃上げ?】経済再生意欲が感じられない来年度予算政府案

2017/12/26

 

【2017/12/26 日本経済新聞】「デフレ脱却へ3%以上を」 首相、経団連に賃上げ要請

 

安倍晋三首相は26日、経団連の会合であいさつし「長年の懸案であるデフレ脱却を実現するためにも、ぜひ来春も力強い3%以上の賃上げをお願いしたい」と要請した。法人税負担の軽減など政府による企業の支援策に触れ「デフレマインドから完全に決別し、大胆な生産性向上投資にチャレンジしていただきたい」と呼びかけた。

 

 来年度の税収を増やしたいために企業に賃上げ要請する安倍首相。だけど、プライマリーバランス黒字化達成時期を先送りしてまで社会福祉政策を強化したい安倍首相のことを、国内企業はどう思っているんだろうね。

 

インフラ整備と社会福祉政策メインの来年度予算政府案

 安倍首相が企業経営者たちに賃上げ3%をお願いする気持ちもわかります。だって、先日政府が閣議決定した来年度の税収は3%の賃上げ頼みですから。

 

 平成30年度租税及び印紙収入概算を見ると、次のような数字が載っています。

 

(単位:億円)
税目 平成29年度実績見込額 平成30年度概算額 増減額 増減率(%)
源泉所得税 153,100 157,250 4,150 2.71%
申告所得税 32,650 32,950 300 0.92%
所得税計 185,750 190,200 4,450 2.40%
法人税 116,770 121,670 4,900 4.20%
消費税 171,220 175,580 4,360 2.55%
一般会計分計 577,280 590,790 13,510 2.34%

 

 来年度一般会計の租税及び印紙収入は、今年度の実績見込額と比較して1兆3510億円増加することを見込んでいます。うち、源泉所得税と消費税からの税収は計8510億円(+2.62%)の増収であり、トータルの税収増の63%を占めます。

 

 要は、来年度税収入は3%の賃上げおよび、賃上げによる家計の消費マインドの改善を前提にしているのです。

 

 そう考えれば安倍首相が企業に賃上げをお願いするのはとてもよくわかることです。

 

 しかし日本企業の経営陣たちは、「大胆な生産性向上」とのたまう安倍首相の国内経済再生意欲をどのように感じているのでしょうか。

 

 

 平成30年度予算のポイントを見ると「経済再生と財政健全化を両立する予算」とのことですが、その大きな柱は次の3つとなります。

 

  • 人づくり革命(幼児教育の段階的無償化等。社会保障の全世代型への転換)
  • 生産性向上
  • 財政健全化

 

 冗談かと思いました。経済再生と財政健全化を両立と書いておきながら、その大きな柱のトップに人づくり革命という名の「全世代型社会保障政策」をあげているのです。経済再生には直接関係ないどころか、幼児教育の無償化等の話は安倍首相が2020年度のプライマリーバランス黒字化の約束を反故にしてまで出してきたものです。

 

 経済再生とは関係のない財政悪化策が「経済再生と財政健全化の両立」の最も主要な柱としてあげられているのです。

 

 さらに資料を見て行くと、人づくり革命および生産性向上には次のような予算を投じるとのことです。

 

[人づくり革命]

  • 保育の受け皿拡大(1152億円)
  • 保育士・介護人材の処遇改善(+1.1%の賃上げ←3%じゃないの??)
  • 幼児教育の段階的無償化(330億円)
  • 奨学金の対象拡充(1063億円)

 

[生産性向上]

  • 中小企業支援策(地域の中核企業の設備投資の促進:162億円 など)
  • 税額控除(対象は十分な賃上げや設備投資をした企業)
  • 研究開発(高効率・高速処理AIチップ等:100億円 など)
  • インフラ整備(三大都市圏環状道路等の整備加速:2283億円 など)

 

 金額を見れば明らかなように、政府の言う経済再生とは「インフラ整備」と「社会福祉政策」なのです。生産性向上など全く関係ありません。

 

 政府は前年度比3%以上の賃上げを行い、かつ国内設備投資額が減価償却費の90%以上となる企業に対し税制優遇措置を行う予定ですが、2020年度までの3年間限定となる見込みです。

 

 政府の経済再生への本気度の低さを窺い知れるなか、果たして日本企業はたった3年間の税制優遇措置を受けるためだけに3%の賃上げをするのでしょうか。日本企業にとって、一度上げたらそう簡単に下げられない賃金を上げるメリットはあるのでしょうか。

 

 国内企業は「経済再生と財政健全化を両立する予算」という中途半端で弱腰な日本ではなく、財政悪化というリスクを冒してでも減税を触媒に経済再生をはかる米国に魅力を感じているのではないでしょうか。来年から地方税込みの法人税率は米国の方が安くなります。

 

 経済再生と言いつつ、2020年度のプライマリーバランス黒字化の約束を反故にして社会福祉政策を強化したい安倍首相と、一貫して米国経済回復を最優先に考え、大統領就任一年足らずで大型減税政策を成立させたトランプ大統領。日本企業がどちらの側につくのか、つまり賃上げと米国への投資のどちらを優先するのか、これから楽しみですね。

 

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