失業給付金の積立金が今後大きく減少するリスクあり

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失業給付金の積立金が今後大きく減少するリスクあり

2017/01/10

 

 今回は日本の失業給付に関わる雇用保険の財政事情について、どうも気になった点が見つかったのでざっと調べてまとめてみたという記事です。

 

 

 平成29年度政府予算案で社会保障費の自然増を5,000億円以内に収めることができたという報道を目にしたので、具体的にどのような内容がカットされたのかを確認するために、実際の予算案を見てみました。

 

 すると目に飛び込んできたのは、雇用労災対策費が前年度予算額から992億円減に転じていたという数字です。実に73%のマイナスです(→ソース)。

 

 ニュースではほとんど触れられていないようですが、平成29年度政府予算案で社会保障費の増加抑制に最も寄与したのは雇用保険の国庫負担額の大幅な減少です。雇用保険国庫負担を平成29年度から平成31年度までの3年間の時限措置として、本則の55%から10%に減少させるとのこと。つまり従来よりも国庫負担が82%程度減少するわけです。

 

 今回の国庫負担引下げによる財政効果額は-1,080億円だそうです。

 

 これはアベノミクスの成果等により、雇用情勢が安定的に推移していること等を踏まえた措置の一環として、雇用保険料率の引き下げと合わせて行われます。保険料率の引き下げも同じ3年間の時限措置が取られる予定で、これによる29年度の保険料収入減は3,500億円にのぼると見込まれています。

 

 つまり今回の措置により、国庫負担と保険料から得られる収入は3年間で総額1兆3,740億円程度減少する計算になります。

 

 平成27年度の積立金は6兆4,260億円ありました。今後は雇用保険の剰余金の赤字となる趨勢は避けられない見込みで、不足分は積立金の取り崩しによって賄われます。

 

 2016年11月の労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会の資料に載っている試算(リンク先の資料2)を見ると、平成33年度には積立金残高が4兆9,853億円と、5兆円を割り込む数字が見込まれています。

 

 しかしこの試算には平成29年度から3年間導入される2つの時限措置である、国庫負担の大幅な減額、および保険料率引き下げによる保険料収入減が含まれていません。

 

 これらを加えると、平成33年度までに積立金残高は3.6兆円程度にまで減少しそうです。つまり試算ベースで、平成27年度から6年間で44%程度の積立金が減少しそうなのです。

 

雇用保険の試算に潜むリスク

 怖いのは、上で触れた積立金残高の試算がかなり楽観的なシナリオを仮定していることです。

 

 何が楽観的なのかというと、雇用保険受給者が今後毎年43万人規模でキープすると仮定されているのです。これは受給者が最低水準である平成27年度の44万人と同程度です。

 

 そのため今後雇用情勢が悪化して失業者が増え、雇用保険受給者が増えてしまうと、積立金残高が試算よりも急速に減少する公算が大きいのです。

 

 つまり今後の雇用情勢によっては、上で計算した、時限措置込みで6年間で積立金が44%減少という減少幅では済まないリスクが十分考えられるのです。

 

 先例はあります。バブル崩壊以降、10年以上失業率が上昇傾向をたどった中、雇用保険受給者も大きく増えていきました。これにより平成5年度に4兆7,527億円あった積立金が、平成14年度には過去最低の4,064億円にまで減少してしまい、枯渇寸前にまで陥ったのです。

 

雇用保険積立金残高の推移

 

 ※その後何故積立金が急速に回復したのかを知りたい方は下のリンク先をご覧下さい。
 →【Business Journal】失業手当をもらえない!空前の黒字の雇用保険積立金、給付率カット&非正規労働者排除

 

 現在、完全失業率は低い水準、有効求人倍率もバブル景気以来の高い水準にあり、たしかに雇用情勢は良いです。

 

 しかし以前の記事で書いたように日本の企業は営業利益や設備投資、設備稼働率が減少傾向にあり(こちら)、金融機関も地域金融機関を中心に非常に苦しい経営を強いられています(こちら)。

 

 さらに法人税の不振の影響で、平成28年度の税収は55兆8600億円と当初予算の見積もりから1兆7440億円の下方修正がされています。

 

 こうした状況を踏まえると、どうやら日本はデフレに向かっているように見えます。そうなると当然雇用情勢の悪化、失業率の上昇につながるので、これから試算よりも早いスピードで雇用保険積立金が減少していくことは十分考えられるのです。

 

 もし積立金が急速に減った場合は、例えば次のような措置をとらざるを得ません:

 

  • 保険料率を上げる
  • 国庫負担額を増やす(要は国債の増発)
  • 給付金を下げる
  • 給付金を受けるための規制を厳しくする
  • 雇用保険に加入できない非正規雇用等を増やす

 

 ただ現在の年金カット法案成立や高齢者の定義変更の意見が出たこと、それに雇用保険の積立金が減少趨勢であるとする見積もりが出たことを踏まえると、収入を増やすよりも支出を減らすことが中心となりそうです。下3つですね。

 

 一億総活躍社会と言われていますが、失業給付に関する数字を見ていると、どうやら一億総活躍を維持できないと財布事情的に問題がありそうです。一億総活躍が崩れたときのリスクはどうも考慮されていないようですから。

 

 いずれにせよ、もし今度日本にデフレの波が襲い掛かったとき、失業者たちは従来のデフレとはまた違った状況に置かれそうです。

 

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